くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「教皇選挙」「悪い夏」

教皇選挙」

そう言えばそうなのだ。これほど人種差別やLGBTなどマイナリティへの多様性が叫ばれているにもかかわらず、踏み込んでいない絶対的領域が教会世界なのだ。そこをまるで楔を打ち込むように抉っていった作品が今回の一本なのだが、さすがにこの領域に踏み込んだらアカデミー賞はノミネートこそすれ授賞は不可能だろうと納得してしまいました。重厚なカメラワークと映画的な絵作りの素晴らしさ、閉じられた空間で展開する手に汗握るサスペンス、それをリードしていくレイフ・ファインズの圧倒的な演技力は見事。クオリティといい物語の深みといい申し分ないほどの出来栄えだが、いかんせんこの領域はキリスト教社会ではかなりの暴挙なのかもしれない。監督はエドワード・ベルガー。

 

ローレンス主席枢機卿が急いでいる後ろ姿から映画は幕を開ける。教皇が急死しその枕元へ向かっていた。早速、教皇の遺体は運び出され居室は封印されコンクラーベの準備が始まる。取り仕切るのは主席枢機卿であるローレンスだった。システィーナ礼拝堂の閉ざされた空間に百人を超える候補者が集まる。ローレンスは、友人のベリーニに次期教皇になってほしいから応援するというが、ベリーニはその気はないと拒否する。そして、誰もが知らない新しい枢機卿ベニテスが参加する。

 

第一回も選挙が行われるが、ローレンスが応援したにもかかわらずベリーニの得票は少なく、ローレンス自身にも票が入る。最初の選挙では決まらなかった事とローレンスにも票が入った事でベリーニはローレンスを非難する。結局ベリーニも教皇の地位を陰で欲していたのだ。他の有力な枢機卿は、黒人のアデイエミ枢機卿教皇と旧知のトランブレ枢機卿、テデスコ枢機卿、らだったが、宗教戦争の時代を理想とするテデスコ枢機卿の就任は断固避けるべきだというのがローレンスらの総意だった。

 

次の投票ではトランブレ枢機卿が得票を伸ばす一方、有力視されたアデイエミ枢機卿に、三十年前の女性問題が明るみになるような修道女が現れトラブルになる。ローレンスがその修道女を問い詰め、結局アデイエミには選挙参加を控えるように忠告するが、修道女を転任させてアデイエミ枢機卿に引き合わせる画策をしたのはトランブレだとわかる。しかも、いくつかの問題点から前教皇がトランブレを解任したという情報が入り、ローレンスは封印された前教皇の部屋に入り、ベッドサイドに、トランブレが最初の選挙で収賄を図ったことの証拠の書類を発見する。

 

ローレンスはその書類を公にし、トランブレを糾弾する。さらにシスターアグネスもトランブレを責める発言をする。ベリーニは自身に勝ち目はないと判断すると共にローレンスを応援することにする。そして次の投票で、ローレンスはとうとう自身に票を入れて投票しようとしたが、突然窓が割れる。外で自爆テロが行われ死傷者が出たらしい。そのことをローレンスは枢機卿らに報告するが、それを聞いてテデスコ枢機卿が声を上げ戦争をすべきだと訴える。これに断固対峙したのはベニテスだった。彼は様々な紛争地域で布教をしてきた経緯で戦争の無意味さを訴える。

 

次の投票で、意外にもベニテスに票が集まり教皇として選出される。そして即位儀式を待つ中、準備するローレンスに腹心のレイがあるニュースを伝えに来る。ベニテスは前教皇と会見した後ジュネーブへある治療に向かったが、その内容は、子宮摘出手術だとわかる。ベニテスは女性だった。ローレンスは就任式を控えるベニテスを訪れ、ことの次第を確認する。ベニテスは前教皇から子宮摘出すれば問題ないと言われ、ジュネーブに旅だとうとしたが思いとどまって戻ってきたのだという。全てが覆され、ローレンスは、すべての窓が開きシスティーナ礼拝堂に灯りがさすのを見つめて映画は終わる。

 

確かに、教皇は男性しかいないし、司教や牧師と呼ばれる聖職者も男性しかなっていない。しかもいまだに修道院という存在もある。誰もが足を踏み入れなかった領域に踏み込んだ脚本が素晴らしいのだが、これがキリスト教社会で通用するのかと、キリスト教と関係のない私たちは思ってしまう。その斬新さに圧倒される作品だった。

 

 

「悪い夏」

ここまで来るともはやコメディですが、一見シリアスな内容のようでここまで振り切った作りをされるとこれはこれで面白い。少々、中盤がくどいように思われて、終盤の畳み掛けが物足りなかったのは勿体無いけれど、荒削りな展開と演出で突っ走っていくバイタリティは正直楽しんでしまいました。監督は城定秀夫。

 

市役所の生活福祉課に勤める佐々木が、生活保護受給者の家を訪ねて安アパートへやってくるところから映画は始まる。訪問先の山田はヘルニアで仕事ができないと答えるが、ゴキブリが現れて思わず立ち上がってしまう始末。そんな山田のことも当たり障りなく報告する佐々木だが、同僚で仕事熱心な宮田はそんな佐々木は甘いと非難する。

 

佐々木の同僚の高野はこの日も生活保護受給者林野の家にやってくるが、実は生活受給を認めるために林野に体の関係を迫り、それが常態化していた。林野にはみさきという子供がいた。宮田は高野がどうやら林野という女性と関係を持っていることを察知しその証拠を掴みたいと佐々木に相談する。

 

一方林野は友人の梨華に高野のことを話したら、かつての雇い主で風俗店経営の金本に相談する。金本は高野と林野の情事の場面をビデオに撮って、それをネタに高野を脅し、ホームレスに生活保護費の受給申請をさせて高野に申請を簡単に通過させ金儲けしようと考える。そして店の常連の山田を抱き込んで計画を立てる。

 

金本らはまんまと高野をはめて計画を進めようとしたが、その頃宮田と佐々木が林野の家を訪ねてきたことから、高野に関わるのはやばいと考え金本は手を引くことにする。佐々木は高野に退職を勧め、高野は仕事を辞める。そして妻と離婚し、金本の店で警官のコスプレで仕事をするようになる。

 

ところが、佐々木が宮田と林野の家に来た際、林野の娘みさきにクレヨンをプレゼントを約束し、それを後刻届けにきたことがきっかけで佐々木は林野と親しくなる。それを知った山田は、金本が考えた計画を佐々木を窓口に変えて、金本を入れずに実行しようと考える。しかし真面目に接してくる佐々木に林野は次第に本気で付き合うようになり、みさきも佐々木を気にいるようになる。しかも、佐々木とみさきが林野の誕生日ケーキをサプライズしたことで、林野はすっかり佐々木をだます事をやめかける。

 

ところがこの計画を金本が知ることになり、梨華を連れて林野の家に乗り込んでくる。林野は身の危険を感じて、佐々木との情事の動画を撮って渡してしまう。佐々木がいつものように林野の家を訪ねると金本らがいて、佐々木は金本のいうことを聞かざるを得なくなる。佐々木はホームレスの生活保護申請を素通りで認めていく。

 

ここに息子と二人暮らしの古川という女性がいた。生活保護を受けることに抵抗があり必死で日々仕事をこなしていたが、ふとしたことで万引きをしてしまい、とうとう捕まって仕事もクビになってしまう。仕方なく生活保護の申請に来たが、すっかり気力を失っていた佐々木は、古川を罵倒して追い返してしまう。後日古川は子供と心中未遂をして病院へ搬送される。

 

すべてに追い詰められた佐々木は林野の家に行き、林野の見張りをしている山田共々包丁で刺し殺そうとする。そこへ金本も梨華もやってきて騒動に巻き込まれるが、さらに高野も警官の格好で包丁を持ってやってくる。その上宮田も現れる。宮田は高野と不倫関係にあったらしく、退職後に高野を探し回っていて林野の家にいると乗り込んできた。こうして混沌とする中梨華は刺されてしまう。

 

雨の中林野はみさきと外へ逃げるが金本が追ってくる。佐々木も追いかけてきて金本の首を締め、金本は佐々木の足を包丁で刺す。みんながみんなめちゃくちゃになってしまう。後日、生活保護不正受給の犯罪で金本、山田、高野は逮捕される。佐々木は退職して掃除の仕事をしている。金本に刺されたせいかびっこをひいている。仕事を終えた佐々木はアパートへ戻り、子供の傘を畳んで「ただいま」とドアを開けて映画は終わる。中にいたのは林野だろうと思いたいラストである。

 

とにかく、どこかチグハグに展開していく流れがラストで一気にコメディに変わって大騒ぎの後エンディング。まるでデビューしたばかりの監督が作ったような荒っぽい映画ですが、こういう作りの作品は嫌いではないです。出来栄えは今ひとつかもしれないけれど、ラストシーンでなんとかまとめ上げた感じの作品だった。