「透明人間」
古き良き日本映画ではあるけれど、コンパクトにまとめた物語の中に様々な工夫が施されていて楽しい。円谷英二の特撮も楽しめるし、映画としての作りも凝っているのは良い。たわいないとは言え、職人芸も光る映画だった。監督は小田基義。
銀座四丁目、一台の車が疾走してきて急ブレーキをかける。運転手の男は何かを轢いたというが周りに何もない。しかし車の下を見るといつの間にか血痕が広がりやがて男の姿が現れて来る。このオープニングが実にうまい。死んだ男は遺書を残していて、自分は戦時中に開発された透明人間部隊の生き残りだという。サイパンで部隊は全滅したが、残った二人の生き残りが日本へ戻ってきた。しかし、こんなかたわになった自分は生きている資格がないからと自殺を選んだという物だった。
この事故を見ているピエロ姿のサンドイッチマンがいた。彼はキャバレー黒船という店で働いている男で南條という名だった。この事件の後、透明人間を名乗った犯罪が横行し始める。競馬場が襲われたり、宝石店が襲われたりするが、全てもう一人の透明人間の仕業ではないかと思われる。新聞記者の小松は社命により透明人間を追跡し始め、サンドイッチマンのピエロに目をつけて尾行を始める。
南條というピエロは平和荘というアパートに住んでいた。そのアパートには目の見えない少女まりがいた。南條はお爺さんと二人暮らしのまりを何かにつけて世話をしてやる。まりの祖父は倉庫番の仕事をしていて、ある仕事を依頼されていた。依頼したのがキャバレー黒船の支配人矢島とボーイ長の健を筆頭とするギャング一味だった。祖父はそれで得た金でまりの手術をして目が見えるようにしてやるつもりだったが、倉庫番の夜勤の日、倉庫の鍵をギャング一味に渡したものの仕事を終えたギャングたちは祖父を殺してしまう。
それを聞いた南條はまりの前に現れ、まりに、クリスマスにまりが欲しがっているオルゴールを持ってきてあげると約束する。その頃キャバレー黒船では矢島らが歌手の美千代を中身に引き入れようとしていた。南條は、まりの祖父が殺された事を知り、さらに密かに美千代に好意を持っていたのでギャングに悪巧みを公にすることにする。そんな南條に小松が近づき、南條は小松を信じて真実を明かす。
ギャング一味は南條の正体を知り、南條をリンチに合わせて、車で車道に投げ捨てて轢き殺させようとする。しかし、間一髪窮地を逃れた南條は透明人間となってギャング一味をこらしめ、最後に矢島をガスタンクの上に追い詰める。そして美千代や小松、警官が見つめる中、南條は支配人と共にタンクから落下して亡くなってしまう。傍にまりへのプレゼントのオルゴールが残っていた。こうして映画は終わる。
荒削りな脚本で、透明人間が作られた説明などのエピソードもあるもののあまり意味もなく、物語に深みも何もないのだが、透明人間を描写するシーンそれぞれが丁寧に工夫されていて、なかなか映像的に優れているのは大したものだと思う。気楽に楽しむサスペンスですが、今見ても楽しいから、本当にこの時代の映画はいいです。
「獣人雪男」
お世辞にもよくできた映画とは言えないし、「キングコング」を全てにおいてスケールダウンした展開も微笑ましいほどですが、この映画がなぜにソフト発売禁止になっているのかと思えるほどなんら変哲もない映画だった。秘境の奥に住む被差別部落民を想像させる設定が良くないという事らしいが、この程度なら名だたる名作の中にも山のようにあると思うのですが、世間の目というのは不思議だと思う一本だった。監督は本多猪四郎。
雪深いアルプス山脈のショットの後、山の麓の駅、山から遭難した仲間を捜索に行った一行が戻ってきたと聞いて新聞記者がやって来るところから映画は幕を開ける。捜索隊の一行を率いる大学教授が、事の次第を飯島に語らせるところから物語は始まる。
飯島らは正月の休暇にスキーにやってきた。仲間たちと一通り滑り、友人の武野たちは権爺の山小屋に向かうと言って途中で別れ、飯島らはヒュッテへ戻って来るがいつまで経っても武野はやって来ず、吹雪が激しくなる中、権爺の小屋に向かう尾根で雪崩が起こったらしいというニュースが入る。山奥に住む部落の住民チカが立ち寄るが、吹雪の中、山へ向かって出ていく。ヒュッテの飯島らは権爺の小屋にやって来るが、何者かに荒らされた後があり、巨大な足跡を発見する。雪の中捜索は難しいと判断した飯島らは一旦山を降り、春になって、武野の妹道子を伴って捜索にやって来る。
その頃、興行師の大場は、山奥に住む獣人雪男の存在を知り、生け捕るべく山へ入っていた。飯島らは、大学教授と共にベースキャンプで武野を捜索するべく計画を進めていたが、道子のテントに獣人雪男が現れたので飯島が後を追い、大場らに見つかって崖から突き落とされてしまう。傷ついた飯島をチカが助けるが、部落民は飯島を縄で縛って崖に吊るす。それを通りかかった獣人雪男が助ける。
大場らは、飯島らに先を越されないように、山奥に住む部落の住民チカに近づき、指輪を与えて、獣人雪男の居場所を聞き出す。そして、獣人の子供を拉致して獣人を誘き出し、その母親を生け捕ることに成功する。しかし、母を助けにきた子供が母の乗った車に飛び移って助けようとしたので大場らは銃で撃ち、子供を殺してしまう。怒った獣人雪男は、大場達を崖から突き落とし、山奥の部落民の村を襲って焼いてしまい、道子を拉致して洞窟の奥に消えてしまう。
飯島らはチカに助けてもらって獣人雪男の洞窟にやってきたが、獣人は道子を抱えて、火山口の上に立っていた。かつてたくさん住んでいた獣人達は毒キノコを食べて全滅したが、子供を産んだ母とその子供だけが助かったらしい。そして、人恋しくなった母と子供の獣人は山奥の部落の人々と接するようになって今日になったらしいとわかる。獣人にチカは近づき、獣人に襲いかかり道子を助けるが、飯島の仲間が発砲し、チカは獣人と共に火山口へ落ちて死んでしまう。こうして映画は終わる。
なんとも間延びした物語で、どこをどう見ても「キングコング」の焼き直しである。怪物のサイズも、ストーリーのスケールも全てがこじんまりしているのがある意味微笑ましい。特撮場面も驚くほどのものもなく、ソフト発禁となっている話題だけで生き残っている映画という感じだった。