くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「キツツキと雨」

キツツキと雨

南極料理人」の沖田修一監督作品であるが、なんともゆるい。全体にスローテンポで淡々と描こうとしているのはわかるのですが、非常にリズムが間延びしているだけでゆるゆると流れていく。とく導入部が実に無駄に思えるカットが多すぎてまず物語に引き込んでいかない。

繰り返しのセリフとシンメトリー名左右対称の構図を多用し、不思議で緩やかな物語の中に、田舎の静かな山村に起こったひと時の騒動を描こうとした意図はわかるのですが、それが人間の心の描写につながらないために深みが出ていないのである。結果として映画が終わっても心の中を通り過ぎた一遍の物語というイメージが残らないのが非常に残念。

木を切る克彦のアップ。木を切り倒すところへ一人の男が映画の撮影なので静かにしてほしいとやってくる。何度も「はい?」と繰り返す克彦のファーストシーンはもっと切れのいい映像でコミカルに引き込んでいくべきだと思うし、それを意図したように見えるのに、なんともその間のつなぎが悪いためにただ何回も「はい?」と繰り返している風にしか見えない。

こういう繰り返しのセリフによるユーモアをこの後も何度か出てくるが、ほんのわずかに間延びしているためにその意図が表面にでないので笑いにつながらないのである。

いつの間にか映画撮影に借り出された克彦が、いつのまにかスタッフの一員になって、いつの間にか気の弱い映画監督幸一(小栗旬)にインパクトを与えていく。はずなのだが、それが伝わらない弱さが残念なのです。沖田修一の演出の仲にその糸は見えるのに伝わらないもどかしさが、中盤の大物俳優としてやってきた山崎努が幸一をほめるくだりにもいまひとつインパクトが弱い。

克彦の息子浩一との仲直りもどこかいまひとつ迫力が無い。

村中が映画の撮影の渦中にはまり込んですったもんだの果てに何事も無かったかのようにもとの生活に戻るというよくあるパターンなのだが、その緩急のリズムがしっかりされていないためにやたらのろのろと展開して、笑うべきところで笑いも出ず、しんみりすべきところでしんみりせず、二時間以上の長いドラマに仕上げてしまったというイメージです。ゾンビ映画という静かな村には好対照のテーマを放り込み、村中の人たちがゾンビのメイクで野良仕事をするショットなど笑えるはずなのに訴えかけてこない。

クランクアップの日に、最後のカットを撮ろうとしたら雨が降ってきて、それを克彦がつかの間の晴れ間を指導し、その一瞬で撮りあげる。感動すべきワンカットだが、ココで映画をまとめられなかった弱さも目立つ。その後のエピローグで浜辺に残る克彦が幸一に作ったディレクターズチェアの構図もどうも作品をまとめる役割をになわずに終わってしまっている。

こうして書いていくとなんとも駄作のように見えるが、そうではなく後一歩足りないのである。「南極料理人」はもう少しコンパクトにゆるいお話がまとまっていた。だから最後まで楽しかったのだが、今回はちょっとメジャー作品を意識しすぎたか純長になってしまったという感じです、もったいないかもしれない。