くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「海辺の映画館 キネマの玉手箱」「グランド・ジャーニー」

「海辺の映画館 キネマの玉手箱」

最初は三時間を超える作品で、鼻についてくるのかと思ったがそんなことはない。いつの間にか映画の中に主人公たちと入り込んで、ラストでは監督のメッセージを素直に受け入れて感動してしまいました。うまいとしか言いようのないストーリーテリングのうまさですね。これが最後と言いたくない大林宣彦監督の遺作となった。

 

尾道にある瀬戸内キネマも今宵その最後を飾るべく戦争映画オールナイトが行われようとしていた。ここに毎日手伝いに通ってくるセーラー服の少女希子、そしてこの日最後のイベントを楽しもうとやってくる自称映画評論家鳥鳳助、坊さんなのにヤクザという若者団茂、この映画館を愛する馬場鞠男、三人の若者が画面を見ている。

 

映画はスクリーン内で描かれる様々な過去の戦争、幕末から現代に至る色々を描きながら、いつの間にかスクリーンの世界に入り込んだ三人が体験する不思議な世界を描いていく。時に希子はそれぞれの映画のヒロインになり、さらには三人の若者も絡み、出てくる役者たちが次々と役を変えて登場する。

 

戊辰戦争、白虎隊、日露戦争、そしてクライマックスは第二次大戦末期に実在した移動演劇隊櫻隊の物語へと収束していく。時に日本軍の非道を映したかと思えば、弱者の悲哀を描き、大林宣彦監督ならではの遊び心満載の映像世界が所狭しと登場。

 

そして三人の若者は昭和二十年八月の広島に佇む。櫻隊を助けたいが歴史は変えられず、やがて原爆投下。ピカで一瞬で即死した面々、ドンまで聞いて被爆により死んだ面々、何もかもに虚しさを見せるのではなくいつまで経っても戦争を避けられない人間の弱さを語っていく。そしてオールナイト上映も終わり、受付でこの映画館の館主である老婆は実は希子だったというエンディングとなる。

 

繰り返し繰り返し同じシーンや時間が前後しながらの映像はいつかだれてくるのではと見ていたが、全然そうならずにクライマックスになだれ込む演出手腕は全く見事でした。なかなかの一本だったなあと締めくくりたいです。

 

「グランド・ジャーニー」

一昔前なら文部省推薦という感じになりそうな素直な綺麗な映画でした。とにかく、カメラがすごいです。今やこういう渡り鳥を間近に撮ることができるというだけでも見た甲斐があるというものでした。監督はニコラ・バニエ。

 

渡り鳥の研究をするクリスチャンは、ある実験を試みようと許可を取ろうとしていた。それは、絶滅種に指定されている雁を安全な空路で産卵や越冬するようにその道順を自分も一緒に飛んで教えてみるということだった。

 

そんなクリスチャンにはいつもゲームばかりしているトマという息子がいた。妻のパオラの許可を得て、トマは三ヶ月クリスチャンのところにあずけられることになる。最初は反抗していたトマだが、卵から雛がかえるところに立ち会ったことがきっかけで、クリスチャンと一緒に雁を育てることになる。

 

そしてクリスチャンに頼んで軽量飛行機の運転も教えてもらう。そして、いよいよ実験が迫った時、博物館で黙って許可印を押した書類がばれて、管理官らがクリスチャンを勾留しようとする。ところがこのままでは育てた雁が取り上げられると判断したクリスチャンの相棒のビヨルンはトマに、湖の中央まで雁を連れていくように指示。ところが、トマはそのまま軽量飛行機を飛ばして雁と共に旅立ってしまう。そして、父クリスチャンからの連絡も断つ。

 

ところが、燃料を補給するために寄ったところで動画が撮影され、トマの位置が判明、クリスチャンは駆けつけた妻パオラらとトマを追っていく。あとはトマの冒険物語と彼を応援する地上の人たちの姿が描かれていく。そして、最後の最後、クリスチャンが設定したルートを通ってトマはもどってくる。六ヶ月後、自力で移動する雁の群れを迎え、クリスチャンの実験が証明されたところで映画は終わる。

実話を元にしているとはいえ、素直に描いた作品で、さりげないメッセージはあるものの好感が持てる映画でした。