「メイソウ家族」
三話のオムニバス作品ですが、それぞれが微妙に絡み合っているという作りになっていて、全てが同じ時間、同じ空間というラストにどこか不思議な面白さと感動を感じてしまう映画でした。大阪芸大が絡んだ作品で、どこか学生の卒業制作のような色合いもないわけではありませんが、楽しめました。監督は第一話、第三話は熊切和嘉、第二話は金田敬。
第一話YUI
完璧な朝食のテーブルを真上から写して映画は幕を開ける。いかにも優等生的な長男が食事をしていて、良妻という雰囲気の母があくせくと動いているが、次女の高校生ゆいは、ろくに食べもせず、お気に入りのスプーンでひと口口に入れて学校へ行く。夫は禁煙中らしく、口に何やら加えたまま食事も取らず出て行ってしまう。
夫は会社では面接で都昆布を平気で食べたり、後輩らと食事をしながら愚痴をしている。ゆいはギターを万引きして、追いかけてきた店員と仲良くなる。ある日、長男は街で、街頭パフォーマンスをしている先輩と遭遇する。妻は食事の後片付けをしていてゆいのお気に入りのスプーンを排水溝に落としてしまう。
妻が家事をしていると頭からペンキを被った長男が帰ってきて部屋に引きこもってしまう。妻はネットで妙な相談サイトにアクセスし、それが新興宗教で、それにハマってしまう。妻が変わってしまったことで、右往左往する夫やゆい、やがて家族中が新興宗教に染まっていき、天井から雨が降ってきて三人で迷走する姿で物語は終わる。
第二話MONOS
一匹の猿のような生き物が、スプーンを舐めている。ドライブをするバカップルがいちゃつきながら運転していて、その生き物を轢き殺してしまう。男は狼狽えるが、その生き物がモノスというUMAだと決めつけ、家に連れ帰る。女は、そんな男の行動が理解できず右往左往する。男は生き物で大金を手に入れられると有頂天。しかし、町内放送で、その生き物は動物園を逃げ出した猿で、妊娠していて、鉄分が必要でスプーンを舐めていた。
女は街で、街頭パフォーマンスを見ている妊婦と知り合う。妊娠すると鉄分が必要だという。実は女も妊娠していて、男に言い出そうとしていた。女は家に帰り、男に、轢き殺したのは猿で、自分は妊娠していると告白する。男は、猿だと聞いてショックを受けるが、ふと我に帰り、自分が父親になったと知り、女を追いかける。しかし交通事故に遭う。
女は男の実家へ行き、両親と会うが、その両親がいかにも最低な両親で、お腹の子供は別の男性のものだと嘘を言い、直後陣痛が起こる。そして生まれた子供にモノスと名付けて育てている場面で映画は終わる。
第三話UMI
言葉が喋れない女子中学生が保健室にいる。どうやら震災で母を亡くし、そのショックで声を失ったらしい。そんな彼女に、臨時講師の風間が赴任してくる。風間は女子生徒にノートを渡して言葉の代わりに書くように勧める。そして二人の授業が始まるが、風間の誠実な授業にいつのまにか女子生徒は淡い恋心を抱いていく。声を失った人魚姫の話を幼い頃の母から聞かされていた女子生徒は、自身の姿を重ね始める。雨の日、風間と雨の中を走り、風間の部屋で服を乾かし、何事もなく終わったものの女子生徒の心はすっかり風間に向いていた。
やがて、風間は、一年の契約期間が終わり、この日帰ることになっていた。授業に来ない風間に、女子生徒は後任の先生に尋ね、風間はもう来ないと知って、風間の乗るバスを追いかける。そして、先生と声を出して叫ぶが、風間は、応えてはいけないと知らないふりをして去っていく。こうしてドラマが終わる。冒頭の長男がこの女子生徒が好きで、すれ違いざまペンキをかぶってしまうエピソードや、走る女子生徒とゆいがすれ違う場面などが被る。
たわいない映画かもしれないが、小品の面白さを堪能できる一本でした。
「激動の昭和史 軍閥」
まさにオールスター超大作戦争映画という感じで、所狭しと出てくる大物俳優、ドキュメンタリー映像を多用した絵作りと、とにかくエンタメ性とドキュメンタリー性を組み合わせた映画でした。ただ、少々、後半散漫になった感もあり、戦争に突入した後の政府内の混乱、東条英機の苦悩と狂気はちょっと偏った視点が見え隠れして、終盤はいただけなかった。監督は堀川弘通。
二・二・六事件勃発から映画は幕を開ける。中国、南方へ資源確保に進出した日本への米英らの非難に、外交戦略で取り組む内閣に不満が募り、やがて軍部の台頭から東条内閣が成立、そして第二次大戦突入と、スピーディに物語が展開していく。しかし、まもなく劣勢になった日本軍に対し、大本営は戦意高揚のために巧みに戦果を操っていく。それに対して毎日新聞の反骨精神による報道、次第に狂気的になっていく東条英機の姿、そして、原爆投下で映画は一気に終わる。
何度も描かれた史実に、若干のフィクションを交えた脚本は、どこか偏見が見えるのは気になるものの、ちらちらとしか出ない大スターの顔を以ているだけでも、まだまだ日本映画は力があったと感じさせてくれる映画でした。