「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」
個性的な面白い映画ですが、奇抜な展開のリズムが若干ずれていて、引き込まれそうで引き込まれない欲求不満になるような映画でした。でも、そこがこの映画の面白さではないかと思います。ちょっとした佳作だった。監督はフレディ・マクドナルド。
選択の三つのシーンが繰り返されて、最近母をなくしたバーバラが、様々なところに吊るしてある刺繍の紐を引っ張ると声が聞こえてくる場面から映画は幕を開ける。刺繍店を営んでいた母は、声が出る刺繍という商品を作っていた。後継にバーバラを選んでいたが、経営が芳しくなく、バーバラは店をたたむ段取りを進めていた。そこに一本の電話が入る。ウエディングドレスのボタン付けを依頼していたグレースからだった。慌ててグレースの家に向かうバーバラ。
着いてみると、結婚式に急ぐグレースから嫌味だらけの罵声を浴びる。それでも背中のボタン付けを始めるが、ボタンが落ちて排気口の網の上に転がる。バーバラはそのボタンをわざと落として、代わりは店にあるからと取りに帰ることにする。ところが帰り道、二人の男が路上で倒れ、傍にピストルとお金が入ったらしい鞄を見つける。バーバラは、選択を迫られ、完全犯罪を選ぶ、二人の男の間に糸を張ってピストルを結び、バーバラが走り去るとピストルが二人のところに轢かれて撃ち合いになる段取りだった。
バーバラは二人が撃ち合った後に戻ってお金のカバンを手に入れて去ろうとする。しかし一人、ヘルメットを被った男はまだ生きていたので、バーバラはその男を車に乗せて店に戻り拉致する。そこへ、弟子のオスカーがやってきたりする。間も無くして男の父親が乗り込んでくる。そしてバーバラはその男に糸で首を絞められて殺されてしまう。死ぬ間際選択をし直すバーバラ。
バーバラは次の選択として警察に通報する。やってきた警官エンゲルは公証人も兼務している老婦人だった。しかし、バーバラが金の入ったカバンを車に隠していることを突き止め、男二人と共に事務所に連れ帰る。そして三人に手錠をかけて別室に閉じ込め、自分はグレースの結婚式を始める。グレースは、ボタンがなくて安全ピンで止めてきたので血だらけになり、途中、バーバラにボタンを縫い付けてもらう。ところがそこへ男の父親が乗り込んできてエンゲルを撃ち、ヘルメットの男も撃ち、最後にバーバラも撃たれてしまう。死の間際、次の選択をする。
第三の選択は通り過ぎるというものだった。しかし、背後で男の父親がヘルメットの男を撃ち、一人の男を乗せてバーバラの後を追ってくる。バーバラはカフェに入るがそこに父親と男、彼は息子のジョシュだった。そして、見たことを話すなと脅しながら傍に座る。ジョシュの手当てをするようにとバーバラに傷口を縫うように言う。バーバラとジョシュはトイレに入って傷口を縫うが、ジョシュは父親が怖かった。バーバラは糸で細工をして父親の席に戻る。父親は、たまたまやってきたオスカーとやりとりをした後だった。
父親はジョシュに、バーバラを殺すように詰め寄る。バーバラは裁縫箱を開け、母の歌声を聞きながら踊り狂い、巧みに糸を張り巡らす。そして席に戻る。ジョシュが糸をひくと紐が父親の膝の上のピストルを引き上げて父親に向ける。ジョシュが第二の糸を引くと引き金が引かれて、父親は死んでしまう。バーバラは、ジョシュらがのってきた車からカバンを取って逃げ、店に戻ってカバンからお金を取り出すが、最後の札を取ると爆弾のスイッチが入り大爆発する。ジョシュは慌ててバーバラの後を追ってきたが、バーバラは店から瀕死で状態で這い出してきていた。通りかかったジョシュは走り去っていき、バーバラは死の間際選択をする。
バーバラは、グレースに呼ばれてボタンをつけようとしてボタンが落ちる。排気口に止まったボタンを今度は拾ってグレースにつけてやる。そしてグレースは気持ちよく結婚式場へ向かう。バーバラが帰り道車を走らせていると、ジョシュの父親が立っていた。バーバラは仕方なく窓を開けると、峠へ行く道を聞かれる。バーバラがそれに応えると、父親は札束をバーバラに礼として与えて、全て忘れて欲しいと言って去る。こうして映画は終わる。
糸を張り合わせて様々な仕掛けを作り出していくくだりはとっても面白いのですが、ほんの少しテンポがずれていて、そのずれがもったいなく、そこが監督の才能ということでしょう。三度の選択とラストの皮肉なエンディングはとっても面白いのですが、出てくる脇役をもっと生かせばもっと楽しい一本になった気がします。
「星と月は天の穴」
昭和の匂いをプンプンさせて描くまさに荒井晴彦監督の妖艶なエロスと、甘ったるいような男女の恋愛ドラマでした。
1969年、小さな公園の二つのブランコが揺れている場面から、作家の矢添克二が友人と橋の上で出会って会話を交わしたところから映画は幕を開ける。妻に逃げられ独身のまま四十代を迎えた矢添は、次の小説の執筆の合間に行きつけの娼館に電話をする。いつも相手をしてもらう千枝子に会いに行くためだ。矢添は、総入れ歯でそのことが彼をどこか恋愛に臆病にしていた。しかし、そんな全てを千枝子は知って付き合っていた。
矢添は、執筆中に恋愛小説の主人公に自分を投影していた。ある日、仮面の美術展にふらっと立ち寄った際、一人に女性と出会う。彼女の名は瀬川紀子と言って、大学生だった。矢添は彼女をカフェに誘い、自宅に送るからと車に乗せる。ところが紀子は車内で粗相してしまう。矢添はそのまま彼女をホテルに連れていき体を合わせる。以来、矢添は紀子と逢瀬を繰り返すようになる。そして二人の姿はそのまま小説の流れに乗っていく。映画は、執筆中の小説の文言を画面に映しながら、モノクロ画面で展開していく。
矢添は、紀子と画廊で出会う以前に娼館で会ったのではないかと記憶を辿ったりする。紀子には活動家の恋人がいるが、恋愛感情には至りきらないところがあった。紀子と付き合いだしてしばらくして、娼館から電話があり、矢添は久しぶりに千枝子を訪ねる。千枝子は、近々結婚することになったと言い、こんな仕事をしていることは内緒にしているのだと言う。矢添は、千枝子を外食に誘う。千枝子は外でデートすることに子供のように喜ぶ。
その帰り、矢添は自宅のそばにある公園に千枝子を誘う。千枝子はその公園のブランコに乗り、結婚はまだ迷っているのだと話し、矢添が一人暮らしなら、世話をしにいけたのにと告白する。それは千枝子の矢添への恋心の告白だった。しかし、消したはずの部屋の灯りがついているのを気にした矢添は千枝子を残して部屋に帰る。一人になり寂しそうにブランコを揺らす千枝子だった。部屋に戻った矢添だが、部屋の中にはもちろん誰もいなかった。窓から公園を見下ろしたがすでに千枝子の姿はなかった。
女友達と旅行に行ったと言っていた紀子から連絡があり、矢添は久しぶりに紀子と会うが、紀子の乳房には咬み傷があった。矢添は、男と行ったのだろうと責めるが紀子は違うと繰り返す。帰り、いつものように車で走っていたが、紀子が妙に絡んでくるので、矢添がふとよそ見をした時に対向車にぶつかりそうになり、ハンドルを誤って柵に突っ込んでしまう。翌日、矢添は念のためと典子と一緒に病院で頭のレントゲンを撮ることにする。この日、アポロ11号の月面着陸のテレビ映像が映されていた。
レントゲン写真を見る医師が、矢添が入れ歯であることを話し、矢添が隠していたことが紀子にばれる。しかし、病院の帰りも紀子は矢添を嫌う様子もなくいつもと同じく歩いて行ってカメラが遠景で二人を捉え映画は終わる。エンドクレジットのバックにブランコを漕ぐ紀子のシーンが延々と流れる。
千枝子と矢添が公園で語る場面がめちゃくちゃに良い。矢添と紀子の逢瀬を繰り返す後半の展開が、若干、間延びする気がしなくもないですが、赤色だけをカラーにして後はモノクロ映像で描く昭和色満載の演出はなかなか楽しい。背後に流れるレトロな歌謡曲も相まって良い空気感の作品に仕上がっていました。
