「めぐり逢わせのお弁当」
インド映画だが、ダンスシーンはない。純粋な大人のラブストーリー。こういう地味な恋愛物語もインド映画にはあるのだと感じいる一本でした。
主人公の主婦イラがお弁当を作っている。上の階のおばさんに指導されながら、自分にあまり興味がなくなった夫に、愛情を取り戻すべく作っているのだが、実はその弁当は定年間近で、しかも二年前に妻を亡くしたサージャンの元に届いてしまう。
インドでは弁当配達人という仕事があり、家庭で作った弁当を届け先に確実に届けるシステムがある。冒頭でそのシーンが写されるが、よくも間違わずに届くものだと感心する。
しかし600万分の1でミスが発生したのだ。弁当業者からとっているつもりのサージャンが、届いた弁当を開くと、何ともおいしい香り。
一方、きれいに食べた空の弁当箱を受け取ったイラは、夫の答えから、間違ったところに届いていることに気がつき、手紙を添えるようになる。こうして始まる寂しい孤独にさいなまれている二人の手紙のやりとりが物語の本編だが、淡々と進むストーリーは本当に地味である。
後任に引き継ぐべく仕事をするサージャンのところにきたのは、いかにも口ばっかりで仕事ができないシャイクという青年。いらだちと、孤独感の中で唯一の楽しみがお弁当となる。
イラの夫が浮気をしているらしいとイラが気がつき、さらに寂しさを覚えるイラは、いつの間にかサージャンと心を交わすようになっていく。
ブータンにすみたいという夢を語り、一緒に行きたいと回答するサージャン。そして、カフェで逢うことを約束するが、サージャンは行かない。翌日届いた空の弁当箱。サージャンはカフェに行かなかった理由を手紙に託し弁当を返す。
逢うべく支度をしていたサージャンは、自分に祖父の臭いを認め、さらに電車で席を譲られ、すでに老いたことを自覚、カフェに行ったものの、若いイラを遠くから見て、声をかけなかったと白状するのだ。
イラは、サージャンに逢うべく、弁当の届け先に行くが、すでにサージャンは退職、シャイクが座っている。
サージャンの行き先にイラが手紙を送る。すべての装飾品を売って、ブータンに行くことにしたと。サージャンはどうするのか。物語は暗転して終わるのです。
静かに、淡々と進む抑揚のないストーリーは、一方で派手なだけのインド映画と対局をなす一本で、非常に品がいいし、上質である。女性を中心に満席の場内がこの映画の魅力を伝えるように思える。
イラの上の階のおばさん、という声だけの登場、イラの父の死、母の経済的な困窮、シャイクの孤児という立場など、インドの底辺の世界を描く。これもインド映画の世界なのである。まじめで、良い映画だったと思います。
「サンシャイン 歌声が響く街」
今時珍しい、とってもオーソドックスなミュージカルだった。なんといっても、楽曲が抜群にいい。スコットランドのプロクレイマーズというバンドの名曲らしいが、どの曲をとっても、口ずさみたくなるほどに心地よくて、リズムが良い。そして、その歌に乗せて踊るダンス、三つの男女の物語が、実に純粋で透明感あふれている。
映画はアフガニスタン、軍隊のトラックに乗っている兵隊たち、彼らがテンポよい音楽を口ずさんでいる。一瞬の閃光で爆発。そして二ヶ月後、デイヴィーとアリーの二人の兵士がスコットランドのリースに帰ってくる。街を闊歩しながら歌が始まり踊り出す。
メインタイトルの後、三つの物語がスタートするのです。
結婚25周年を迎えるロブとジーン、そして息子のデイヴィーと恋人イヴォンヌ、娘のリズの恋人はアリー。三つの一見ラブストーリーの予感を覆すのが、25周年の結婚記念日のパーティ。
軽快な歌とダンスシーンを繰り返しながら、ロブに24歳の隠し子がいることが判明し、それをジーンに告白し、それを受け入れられないジーンは、ロブを遠ざける。
一方その席で、アリーはリズにプロポーズするも、フロリダで働きたいという夢のあるリズはプロポーズを断り、アリーは自暴自棄に再び兵役に。
また、その席で、暴れてしまったデイヴィーもイヴォンヌに嫌われ、溝ができる。
しかし、ジーンとの仲を取り戻そうと、料理を思いついたロブが、材料を買って戻るときに突然心筋梗塞で倒れ、それをきっかけに、それぞれの男女が、それぞれに溝を埋めていく。
物語は、戦地のアリーからの手紙を見るリズ、デイヴィーとイヴォンヌはよりを戻し、ジーンはロブを許し、その隠し子の娘とともに退院の日に病院に来る。
とっても透き通った男女の物語で、名曲の数々に乗せて踊るダンス、特にクライマックスイギリスに向かうイヴォンヌを追いかけたアリーが公園で群衆と一緒に踊るシーンは圧巻。
昔懐かしいミュージカルをみたという感じで、元々舞台劇らしいが、それなりに美しくまとまっていた気がします。ただ、曲がすばらしいし、ダンスシーンも楽しいが、映画としての完成度はもう一歩物足りなかったかな。
三つの物語のストーリーテリングが、映像として昇華し切れてないために、ややまとまりに欠けた気がします。でも、楽しい一本でした。