くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「椿の庭」「ブータン 山の教室」

「椿の庭」

一見綺麗な映画なのですが、全てを終盤のエピローグでぶち壊してしまった感のある作品でした。語るべきドラマを語れずに最後にダラダラと余計なシーンをいくつも繋いだために、奇妙な間延び感が出たのが本当に残念。結局写真家としては一流ですが、映像作家としては今一歩だったかという感じです。監督はフォトグラファーの上田義彦

 

庭の金魚が死んだので手で掬って椿の花に包んで埋めている場面から映画が始まる。ここに住まいする絹子は、中国?韓国?から帰って来た孫の渚と二人暮らしである。先日夫が亡くなり、四十九日を控えていた。この日無事四十九日を済ませた絹子に娘の陶子は、相続税の支払いなどにこの家を売ることを考えるように絹子に勧める。時の流れを庭の花のショットを多用することで表現し、富司純子の静かな演技と相まって淡々と流れるまるで映像詩のような展開が続く。

 

税理士の紹介で絹子の家を買うという男も見に来て、大切に使いたいと告げる。そんな時、夫の友人が訪ねてくる。絹子もよく知るその男性と一時の昔話に花が咲いたが、その日、庭で絹子は倒れてしまう。医師は大したことはないと言い、薬を処方するが、絹子は渚にも黙って薬を飲まないようにする。

 

次第に弱っていく絹子は、一人の時に身辺の整理を始め、思い出の品を渚や陶子に譲る。冬が近づいた頃、庭で枯葉をはいていた渚が絹子の様子を見ようと室内に入ると絹子は静かに息を引き取っていた。映画はここから非常にくどい展開になる。住むと言っていた家の買い手は何故か家を取り壊し、渚は陶子の一緒に住もうという勧めを断って一人暮らしになる。

 

絹子が死ぬまでは実に美しい映像で淡々と描くのに、死んでからにラストまでがいかにも俗っぽい映像でくどくどと暗転を繰り返す。わざとなのか、映像作りに才能がないのかわからないが、この終盤が実にもったいなかった。

 

ブータン 山の教室」

本当によかった。素朴でよくある話ですが、作り方によってここまで名編になるかというほど綺麗によくできた作品でした。素朴な展開の中に見事に埋め込まれたさりげない配役やエピソードが実に上手いし、なんと言ってもルナナの村の景色が抜群に美しい。余韻を残すラストシーンに涙が止まりませんでした。いい映画でした。監督はパオ・チョニン・ドルジ。

 

ブータンの都会に住む教師をしているウゲンは、ミュージシャンになる夢がありオーストラリアへの渡航を考えている今時の若者である。iPodで音楽を聴き、ギターを弾き、教師の仕事は適当で、ガールフレンドもいて友達もいる。そんな彼に、標高4800メートルの僻地にあるルナナという村の教師として赴任するようにという辞令が出る。冬までのわずかの期間だからと仕方なく引き受けたものの、ガザの町までしか携帯も使えず、そこから八日間かけて村まで行くことになる。

 

ガザからルナナまでラバを引いて連れて行ってくれる村のミチョンという若者とウゲンは村を目指す。どんどん高地へ進む中、子供時代は一面が雪になることもあったが今はなくなったとつぶやくミチョンの言葉に何某か心が揺れるウゲン。そして、最後の峠で、旅の無事を祈り石を積むミチョン達の行動にも興味を持たず先を進むウゲン。そして村まで二時間というあたりまで来ると、村人全員が出迎えてくれた。この旅程で、靴のエピソードが実に心に染み渡るのです。

 

ルナナに着いたものの、当然電気もなく、教室というところも荒れたままで、ウゲンはいきなり村長に、自分では無理だからと帰る準備を頼む。その夜は、与えられた部屋で眠ったウゲンだが、目が覚めると玄関に一人の少女が立っていた。彼女はクラス委員でペムザムという名だという。8時半から授業だが9時になっても先生が来ないから迎えに来たという。ウゲンは仕方なく教室に行き、自己紹介程度のことをするが、あまりに何もないのでその日はお休みにする。

 

結局、前任者の残した教材で授業を始めるウゲン。しかし次第に、子供達を教えることに希望を見出す。村長が帰りの準備ができたと言って来たが、冬までここに残ると告げる。町から教材を送ってもらったりしながら、次第に子供達と親しくなるウゲン。地元でヤクに捧げる歌を歌う少女セデュと知り合う。お互い何かを感じるも、それ以上の進展はなく、ウゲンはセデュからヤクに捧げる歌を習い始める。教室にもヤクを飼うようになる。

 

やがて秋が来て、冬が近づいてくる。オーストリアへの渡航の準備もできたという手紙も届く。ウゲンは去ることを決める。旅立つ日、ペムザムはみんなの気持ちを認めた手紙をウゲンに渡す。セデュも白い布を贈り戻ってくるようにと告げる。村長はずっと歌っていなかったヤクに捧げる歌を朗々と歌って見送る。後ろ髪を引かれるように旅立つウゲンは、最後の峠で自ら旅の無事を祈る。

 

カットが変わるとオーストリアのカフェでギターを弾いて歌うウゲンの姿があった。しかし、ふとポケットにあるオーストリアのパンフレットにメモしたヤクに捧げる歌をとり出し歌い始める。そのまま暗転して映画は終わる。おそらく戻るのかもしれない。しかし、ウゲン自身の夢も今叶いかけているのだ。この余韻のあるラストが見事で、一気に胸が熱くなります。いい映画に出会いました。