くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「FARANG/ファラン」「マグダレーナ・ヴィラガ」

「FARANG/ファラン

緩急をつけたスピーディなカメラワークと、シンプルでテンポの良いストーリ展開、娯楽性に富んだ作劇の面白さを堪能できるエンタメ映画でした。バイオレンスアクションなのですがどこかオリジナリティに富んだ構図や展開の工夫がとっても面白い作品だった。監督はザビエ・ジャン。

 

刑務所のボクシングジムでしょうか、主人公サムがトレーニングしている場面から映画は幕を開ける。ボクサー同士の諍いが起こっても関わらずにその場を去り部屋に戻る。まもなくして仮出所が認められサムは刑務所の外に出るが、かつての悪仲間が絡んでくる。サムは無視するがしつこく近づいてくるのでビルの工事現場に逃げ込むが、追ってきた一人の男と争ううちにその男は誤ってビルの下に落下して死んでしまう。そして5年が経つ。

 

タイで、愛する妻ミア、愛娘ダラと暮らすサムは、大手ホテルの仕事で空港からの客の送迎などをしていた。ミアは地元のレストランで働いていた。海岸のそばにレストランを開くのが夢のミアのためにサムは八百長のボクシング試合に出て金を稼いでいた。彼のセコンドをしているのは、かつて自身も裏の道を歩んだハンサという男だった。ミアの働くレストランの主人ソルバックは何かにつけてサムの世話をしていた。

 

ミアが手付けを収めた土地の契約に役所に行くと、より高値で買い取ろうとしている男がいることを知る。ソルバックの情報で、どうやらナロンという男が横槍を入れているのだが、麻薬取引などかなりの悪者だからと釘を刺される。しかし、ミアの夢を叶えるべく、サムはソルバックに紹介されてナロンに会う。ナロンはサムが空港に出入りできることを知り、麻薬を持ち出す手筈を一度だけ助けてくれたら土地を譲ると申し出る。危険を承知でサムは一度限りの仕事を請け負うが、すんでのところで見つかり逃走することになる。

 

仕事が失敗したと知ったナロンはサムの家族のところを襲い、ミアを殺しダラを誘拐し、サムにも瀕死の重傷を負わせて家に火を放つ。ところが床が抜けて川に落ちたサムは駆けつけたハンサに助けられ、二週間の介抱の末一命を取り留める。サムは、ナロン達へ復讐を誓い、ナロンの右腕カセムを探し出し殺すが、カシムが死ぬ寸前、ダラが生きていることを知る。

 

サムはダラがバンコクのナロンの店にいると突き止めバンコクへ向かおうとするが、ハンサが助太刀を申し出る。そしてバンコクのナロンの事務所へ殴り込み、サムはナロンを追い詰めるが、そこでナロンは、実は5年前に殺した男がサムに復讐するために仕組んだことだったと真実を話す。しかもソルバックもサムを売ったのだった。さらにダラは地元から全く外に出ていないのだという。

 

サムはナロンを殺し、地元に帰る。海岸そばにソルバックが店を出し、ダラを育てていた。ソルバックは、昔からミアを愛していて、サムがこの地に来たことでミアを奪われたと思っていた。サムはダラと再会、二人は抱き合って海岸を去っていく。背後には銃声、ソロバックが自殺したのだろうか。こうして映画は終わる。

 

映像も美しいし、レストラン内を長回しで移動するカメラや、斜めの構図を細かく編集するアクションシーンの演出などのカメラワークがとっても面白い。物語はシンプルな勧善懲悪な上に、やや荒っぽいところもある脚本だけれど、娯楽映画として楽しめる一本でした。

 

「マグダレーナ・ヴィラガ」

時間を前後させ時系列を曖昧にして、娼婦として生きる一人の主人公の孤独を詩的な感性だけで描いていく作品。時に、シュールな映像や宗教も絡み、ひたすら男とSEXする主人公の顔のアップを繰り返す。明確な物語を語るより映像で感じさせる映画という感じの一本だった。監督はニナ・メンケス。長編デビュー作。

 

一人の女性アイダが警察に収監されるところから映画は幕を開ける。彼女は娼婦で、次々と男に抱かれる様の顔のアップが繰り返される。その合間に同僚のクレアにさまざまな愚痴や寂しさを打ち明ける。ダンスホールで逮捕された彼女は、全身血だらけで、それは経血だったと面会にきたクレアに話す。

 

いつも客をとっているホテルの一室で、客の男が殺されたのが見つかり、血だらけだったアイダが逮捕されたらしい。警察では殺人者は裁かなければと話すワンシーンもある。教会のミサで、自分は魔女だと三回唱えるとアイダの頭が炎に包まれ、そのまま教会の一室に隔離される場面などもある。孤独な中にいる一人の女性の姿だとクレアのアップで映画は終わる。

 

正直、終始よくわからない映画だったが、要するに、物語を追う作品ではないのだろう。時系列を前後させているというより、曖昧に繋いでいるだけで、アイダがなぜ娼婦になったのか、なぜそれほど孤独なのか、クレアとの関係はどうなのか、何もかもが曖昧な空気感に包まれている。デビュー作というのはえてしてこんなものだなと思える映画だった。