くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フラメンコ・フラメンコ」「第九軍団のワシ」

フラメンコ・フラメンコ

「フラメンコ・フラメンコ」
すばらしい。映画が映像芸術としての存在の一端を担うとしたらまさにこういう作品による表現を言うのであろう。

一流のダンサーが、演奏者が、歌い手が奏でるスペインの民俗芸能であるフラメンコをまさしく、ライティングを駆使した一流のカメラマンで光の魔術師と呼ばれるヴィットリオ・ストラーロがとらえ、巨匠カルロス・サウラ監督が見事なカット、カメラワークを駆使して描いていく。そこにはただの民俗芸能としての完成されたフラメンコのすばらしさのみならず、めくるめくように華麗で情熱的な映像の世界が展開していくのです。もう、始まったとたんにどんどん引き込まれて、画面に釘付けになってしまいました。

ホールの屋根が映され、ゆっくりとカメラは舞台の方へ。たくさんの絵がところ狭しと立てかけられた中をくぐっていくと一枚の庶民を描いたデッサンのような素朴な絵にたどり着く。そしてその絵をくぐると真っ赤なドレスの女性が華麗なタップを駆使しながら情熱的なダンスを繰り広げる。「フラメンコ・フラメンコ」はこうして幕を開けます。

ダンスや歌のナンバーや演奏者、ダンサーのテロップが端にでますが、もちろんその方面に全く造詣がないので意味不明ですが、スクリーンに次々と登場するすばらしいダンスの数々や演奏の数々は単に記録映像としての画面ではなく、背後からの太陽のような黄色い光を逆行に近いライティングで当てて、正面からの光との微妙なバランスで美しいスペインの景色を色彩で表現する。そして、時にタップをする足下を徹底的にとらえたかと思うとダンサーの顔のアップやギターのつま弾く指を画面いっぱいに納めてみたり、ワンシーンワンカット長回ししたりと、カット割りのテクニックを駆使して映像美としても描写させていく。

前半、次々と様々なアーティストをとらえていくが、中盤あたり、「SILENT」という曲ではダンサーの汗がほとばしるショットを出だしに挟み、絵の背後でシルエットで踊る姿を描いていく。さらにそれに続く曲ではダンサーたちが踊る姿が歌手の背後のミラーに映し出され、いったいカメラが何処にあるのかと思わせるような立体感あふれる構図も駆使してくる。さらには、鏡のように反射する床に映るアーティストたちだけをとらえてみたり、雨を降らせてその中でダンスをする姿をとらえてみたりと、その演出手法は終盤に向かってどんどんテクニカルになっていくのである。

しかし、芸術的な頂点へ向かったと思われる映像が一転、エンディングで再び冒頭の庶民的な絵をバックにし、大勢の人たちが円になって、ギターに合わせて自然と歌い出す、踊り出す。フラメンコの原点としての庶民音楽の姿に回帰していく終盤が実にすばらしい。

カメラはそんな様子をとらえながらゆっくりと引いていき、立ち並ぶ絵の中をさらに天井、外へと移動していく。今まで聞こえていたフラメンコのギターの調べはいつのまにか雑踏の音が被さり、電波塔のようなパラボラアンテナを背後からとらえてエンディングである。

物語がある作品ではないのですが、本当に美しい。映像だけで何かを語りかけてくるというまさに映像表現の極みと呼べる映画でした。本来見に行かないジャンルですが、見に行ってよかったと思います。

「第九軍団のワシ」
消されたヘッドライン」などのケヴィン・マクドナルド監督作品。歴史小説の名作を原作にした作品ですが、いかんせん、私の乏しい教養の中にはこの小説の知識はありません。

物語は非常にシンプルで、西暦120年、スコットランド地方に侵攻したローマ軍の第九軍団5000人は忽然と姿を消す。率いていたのはフラビウス・アクイラ。しかも軍団の象徴でもある黄金のワシも姿を消した。というテロップから物語が始まる。そして20年後、不名誉の名を受けた父フラビウス・アクイラの息子マーカスはローマ軍に所属、かつて父が赴任していた辺境の地で第二軍団の隊長としてやってくる。

武勲を立てたものの負傷で除隊、叔父の家で生活する中である日、叔父の友人から第九軍団のワシが北の長城のかなたで見つけられたという噂を頼りに、たまたま助けた奴隷エスカと辺境の地へ旅立つ。

スコットランドの寒々とした景色、煙るような霧、荒涼とした大地をとらえるアンソニー・ドッド・マントルのカメラが実に美しい。

原住民の言葉を話せるブリテン人エスカが先導しながら進む途中で、第九軍団の脱走兵と遭遇したりして、次第にワシの存在が確信へと進む中で、かつて第九軍団と戦い戦滅させたアザラシ族と遭遇、エスカの機転で二人はアザラシ族の村へつれていかれる。そこで、ワシを発見した二人は村人が祝いの宴で酔いつぶれた隙にワシを取り戻し脱出。彼らを追ってくるアザラシ族からの逃亡劇が終盤のメインになる。

これといった卓越した映像は見られないのだが、とにかく景色のショットが美しい。ただ、デジタルカメラなのか、どうも光の奥行きが乏しいのが実に惜しい。

瀕死で逃亡する二人に追っ手が迫り、あわや限界かと思われたときに馬を捕りに戻ったエスカが第九軍団の生き残りを連れて舞い戻り追っ手と一戦を交え見事ワシを守り通す。

ブリテン人ローマ人それぞれに敬意を払うマーカスの姿を描いて、凱旋して映画は終わる。

ストーリー展開がシンプルでハイスピードなので退屈はしないが、マーカスの苦悩やエスカとの男同士の心の交流、征服者と非征服者とのドラマ性がおそらく原作ではきっちりと描かれているのだろうが、そのあたりがちょっと映画では薄っぺらく思われ、単純にワシを取り戻し、父の名誉を回復し、めでたしめでたしという軽いストーリーに終わってしまった感がします。

奴隷ではなくなり自由民となり誇りを取り戻したエスカとマーカスが二人で、「次はなにをしようか」と話しながらでていくエンディングにも今一つ感慨深さが生まれてきませんでした。まぁ、ふつうの映画だった気がします。