くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男」「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」

ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男」

なかなか見応えのある映画でした。実写映像とフィクション映像を巧みに交錯させて、為政者の裏側の姿をリアルかつ迫力ある演出で描いていく。もちろんナチス映画であるし、反戦メッセージも見えてくるのですが、娯楽映画としても相当に描き込まれていて面白い。ちょっとした佳作という感じの映画でした。監督はヨアヒム・A・ラング。

 

「はじまった」という声が暗闇の中に聞こえ、ゲッベルスが今完成したプロパガンダ映画「民族の祭典」を試写室で見ている場面から映画は始まる。そして時が遡り第二次大戦直前のドイツ、オーストリアに侵攻したヒトラーが凱旋してくる。出迎えたナチス為政者の中で宣伝担当をしているゲッベルスは、いずれヒトラーに次ぐNo.2を目指し職務に奮闘していた。

 

ナチスの偉業を前面に打ち出す作戦でみるみる人民を把握していくが、ヒトラーの執政は武力による支配だった。その考えに若干の異論を唱えたゲッベルスは、ヒトラーから遠ざけられ始める。ゲッベルスは、起死回生のためにヒトラーの政策に迎合するかのような過激な宣伝作戦を提案していき、ついにユダヤ人迫害をその手段として提案、それがみるみる大きな姿となってヒトラーやその周辺の将校たちを巻き込んでいく。

 

ヒトラーソ連と不可侵条約を結んでヨーロッパを収めていくが、突然ソ連侵攻を計画する。しかしまもなくしてスターリングラードでの大攻防戦で劣勢になったドイツは次第にソ連に押し戻されていく。劣勢になっていく中でもヒトラーの政策は変わらず、ベルリンも空襲に見舞われるようになる。そんな中、女性、少年たちも戦地へ動員しようとする中、ゲッベルスもまた、家族をベルリンに呼んでその意気込みを見せつけていく。そして、ついにヒトラーは戦死し、その遺言でゲッベルスを首相に指名するが、翌年、ゲッベルスもその家族も亡くなってしまったというテロップで映画は終わる。

 

ドキュメンタリーとフィクションを交えサスペンスタッチで描いていくストーリーテリングが非常に仕上がりが良くて映画としても面白い。一方で、作り上げられる戦意高揚の宣伝政策の恐ろしさ、それに溺れて周囲さえも見えなくなっていく為政者たちの狂気もしっかり描かれている。大傑作とまでは行かなくても、非常に良くできた作品だった気がします。

 

 

「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」

期待通りの映画だった。出だしは、ゆるゆるの学園ドラマかと思っていたけれど、荒っぽいセリフの応酬が次第に味を出して来て、中盤の告白シーンから終盤の何もかもが見えてくるラストに至っては終始涙が止まらなかった。少々くどい演出も見られるものの、さりげない伏線を軽く回収しながら、関西弁の味を有効に生かしたカット割りも面白いし、切なさに引き込まれてしまう一本でした。監督は大九明子

 

雨の中、傘をさす大学生小西の後ろ姿、ヘッドフォンをつけた女子大生とすれ違うシーンから映画は幕を開ける。ある日、小西はお団子頭で一人蕎麦を食べている女子大生に目を奪われる。講義の出席票を出してもらおうと近づいた小西はその女子大生が桜田花という名前だと知る。さらに、たまたま人通りのない通路を歩いていたら小西は桜田と偶然出会い、さらに、小西がいつも立ち寄るカフェでバイトしていることを知ってみるみる親しくなっていく。

 

小西は銭湯でバイトしていて、バイト仲間のさっちゃんといつも冗談を言い合っていた。さっちゃんはバンドを組んでいて、スピッツの「初恋クレージー」という曲が素敵だから一度聴いてみたら小西に勧めていた。一方小西は桜田から、ある言葉を言われ、さらにテレビの音響を最大限にしてみたらなどと勧められているのをさっちゃんに話したりしていた。お互い、遅刻したり忙しかったりすると呼び出してはそのお返しに食事をしようと言い合っていたが実現することはなかった。

 

ある夜、いつものように銭湯のバイトをしていた二人だったが、さっちゃんが突然湯船に飛び込んでしまう。慌てて小西が助け出すが、それはさっちゃんの冗談だった。さっちゃんは小西が一人の女性と親しくしているのを知っていて応援していた。バイトが終わった帰り、さっちゃんは小西に告白する。なかなか好きと言えず「このき」と言い換えて延々と小西に告白するさっちゃんの目にはいつの間にか涙が溢れていた。

 

もし小西が、今親しくしている女性といい感じになる前に告白していたら上手くいったかもしれない、好きという言葉がこんなに口に出せないものかと思わなかったかもしれない、小西が親しくしている女性の勧めならすぐに実行しているのに自分が勧めたスピッツの曲は未だに聴いてくれない、などとただただ訴えていく。小西は返す言葉もなかった。このさっちゃんの告白シーンがめちゃくちゃに切なくて良い。そして明日から普通に接するからと言ってさっちゃんは去って行った。

 

翌日、小西は桜田といつもいくカフェで朝食を食べ、その後昼食も一緒に行こうと約束するが、桜田はやってこなかった。小西は、自分が桜田に揶揄われ、嫌われて、いただけなのではないかとショックを受け、親友の山根にも当たり散らして、山根も愛想をつかせて小西から去って行ってしまう。そして一ヶ月半が過ぎる。あれ以来さっちゃんも銭湯のバイト先に顔を出していなかった。

 

一月半ほどして、ようやく落ち着いた小西は山根に電話して仲直りする。そして小西は久しぶりに銭湯のバイトにやってくる。主人の佐々木の娘が赤ん坊を抱いていた。佐々木が呼んでいるというので小西が入っていくと、佐々木は、さっちゃんが亡くなったのだと大声で伝えて来た。そして、なぜさっちゃんが休んだときに連絡をしてみなかったのか後悔していると言う。そして翌日、二人はさっちゃんの実家に線香をあげに行った。

 

さっちゃんの実家で小西らを迎えたのはなんと桜田だった。桜田花は、さっちゃんの姉だった。不登校で一年留年した桜田は、小西と同級生になっていた。小西は銭湯のバイト先でもさっちゃんとしか呼ばず本名を知らなかった。さっちゃんは一月半前交通事故で亡くなったのだ。その知らせを母から聞いた聞いた桜田は、あの日小西との約束に行けずに実家に戻ったのだった。「最悪だ」と泣き叫び出ていく佐々木。残った小西と桜田は、桜田の父で桜田らが幼い頃に死んだ父が娘に残した手紙を読む

 

小西はさっちゃんが言っていた「初恋クレージー」をかけることにする。音量を最大限にし、小西は桜田に告白する。そして、これからもずっと一緒にいたいと告げる。こうして映画は終わる。

 

カフェのマスコット犬や、レストランでのオムライスの経緯など小さなお遊びも散りばめ、細かい伏線を丁寧に回収していきながらも、関西弁特有の荒い台詞回しで湿っぽくならない脚本も上手い。少々甘い場面をあるものの、とっても切なくてたまらなくなる青春ラブストーリーでした。