くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヴェルクマイスター・ハーモニー」

ヴェルクマイスター・ハーモニー

タル・ベーラ監督作品ということでもう一本チャレンジである。しかし今回も長い。つまりワンシーンが非常に長い。2時間24分の作品でわずか37カットしかないという演出スタイルでみるものを陶酔の世界へ引きこっんでくれる。

物語はというと、書きようがないのである。
あるハンガリーのとある田舎町。そこは何もかも秩序だったのどかな世界なのだが、そこへ移動サーカスがやってくる。そのサーカスには巨大な鯨とプリンスと呼ばれるスターが同伴するという。
主人公ヤノーシュは深夜、そのトラックをじっと見つめ、これから起こる何かの予感を察知する。

やがて鯨の乗ったトラックへ行ってみるとそこにはいつの間にか群衆が詰めかけている。そして、トラックの中にあるのはまるで普遍の産物のごとく横たわる鯨の張りぼて。その目は何かをみすえ、均衡が崩れようとするきっかけをじっとみているようでもある。果たしてこの群衆は何者か?そして夜間、群衆の中でささやかれる会話は何を意味するのか?そして扇動者のようなプリンスの正体。すべてがまるでレイ・ブラッドベリのファンタジーのようであり、フェリーニの映画のようでもあるが、似ているようで似ていない全くの別物の不気味な展開なのである。

「倫敦からきた男」同様非常に長いワンシーンワンカットの演出であるが、「倫敦・・」よりも場面転換に切れがあるので、後半は退屈しない。つまり一本の作品としてリズムができあがっているのである。もちろん「倫敦・・」もあれはあれで優れた映像世界でしたが、こちらの作品の方が見やすいといえば見やすいですね。明暗の画面転換もくっきりしているので。

やがて何かが狂ったこの村で暴動が起き、人々は弱者の象徴である病院を襲う。ところかまわず暴れた末に、浴室でひからびたように立ちつくす老人の裸体に出くわしたとたん、一気に冷め、ゆっくりと引き上げていく。その陰にじっと見つめるヤノーシュのアップがすばらしいです。

クライマックスというものはありませんが、完全に言葉を失ったヤノーシュは入院し、彼を見舞うエステル氏、そしてその後広場にでたエステル氏はそこにトラックから放り出されたような張りぼての鯨を見つけます。そしてその傍らによりその目を見、ゆっくりと歩いていくラストで映画は締めくくられます。

いったい何だったのかと思うのですが、タル・ベーラ監督がいうように、この映画は人それぞれそれぞれに感じてもらえればよいということらしいので、私としては圧倒的な映像世界を堪能できたことで満足といえますね。見事な映画でした