くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「女王蜂と大学の竜」「女体渦巻島」「地獄」(中川信夫監督版)

「女王蜂と大学の竜」

時間内に収めるためとある程度の尺を作るために淡々と展開するたわいない娯楽アクションで、何の変哲もない映画だが、今となっては絶対に作れないストーリーゆえ、今見れば値打ちがある一本かもしれない。監督は石井輝男

 

戦後間も無く、戦勝国三国人が傍若無人に日本人の露天商に襲いかかっている場面から映画は幕を開ける。この地域のヤクザ者関東桜組の事務所に殴り込んだ三国人たちだが、組長の娘珠美に一喝され、さらに飛び込んできた特攻隊上がりの竜二にコテンパンにやられてしまう。

 

関東桜組のシマを手に入れようと、三国人連盟や新興ヤクザ土橋工業の社長らが手を替え品を替えて嫌がらせをしてくる。映画は、そんなアコギな三国人や土橋組を正当なヤクザ者桜組と竜二の活躍で繰り返し撃退していく様が描かれて、最後の最後に、珠美が四代目を襲名、三国人連盟と土橋組が襲いかかってくるのを、反撃撃退し、桜組に連盟の会長や土橋組社長が謝って映画は幕を閉じる。

 

朝鮮人らを三国人と称して蔑んだ展開は流石に現代では取り扱えない物語ですが、当時はそういう風潮であり、現実にこういう出来事も頻繁にあったのではないかと思うと、ある意味、今の私たちも知るべき史実なのかもしれない。なかなか興味深い一本でもあった。

 

「女体渦巻島」

気楽に映画館に立ち寄って気楽に観る娯楽アクション。こういう映画が山とつくられた感の一本だった。監督は石井輝男

 

終戦後、対馬が麻薬と人身売買の拠点となっているテロップの後、この地にやってきた大神の一人セリフから映画は幕を開ける。彼は密売貿易の本部香港からやってきた男で、かつての恋人百合が営むキャバレーへやってくる。百合は対馬で人身売買と日韓貿易で麻薬取引を牛耳っていた。大神は今は百合のボス陳雲竜に復讐するためにゃってきたのだ。

 

しかし大神の存在が鬱陶しいマネージャーらは大神を亡き者にすべく次々と悪巧みを繰り返す。しかし、ことあるごとに百合に邪魔され。日韓貿易で麻薬取引の際もなぜか警察に密告されていて、どうやら大神の仕業だと思ったマネージャーらは陳雲竜との人身売買の取引の場で大神を倒す計画を立てる。

 

乗り込んできた大神は陳雲竜と最後の決闘となり、その銃撃戦の中で百合は死んでしまう。そして形成が不利となった陳雲竜は自ら崖から飛び降りる。百合の死体を抱きしめる大神の姿で映画は幕を下す。

 

これというものもない普通のアクション映画で、脇役もいつのまにか本筋から消えていく適当さも多々ある映画で、当時の大量生産娯楽映画の一本という程度の映画だった。

 

「地獄」

この世の地獄とあの世の地獄を延々と描いていく映像アートの世界、中川信夫監督の傑作の一本をようやく観ることができた。シュールな中にエロスを交え、目眩く人間関係の地獄絵が、やがて運命の性に翻弄されながら、死後の地獄へと落ちていく主人公を通じて、人間の生き様こそが地獄であるかの如く語り尽くしていく映像が見事な一本。娯楽映画とはお世辞にも言えないが、特撮映像とジャンプカットを多用したハイテンポな作りはさすがに見事だった。

 

真っ暗な中に棺が映され、それが火葬場で焼かれるところから映画は幕を開ける。矢島教授の地獄思想の講義を受ける清水は、隣に現れた悪友田村に驚く。そして、昨日の男は死んだと告げられる。清水は昨日の事件を思い出す。清水は矢島教授の娘幸子(ユキコ)と結婚が決まり、この日教授の家で報告をしていた。そこへ突然田村が現れる。田村の車で帰ることになった清水だが、途中寄り道をしようとして一人の男を轢き殺してしまう。田村はそのまま轢き逃げをし、清水は良心の呵責に苛まれる。

 

死んだのは権藤組というヤクザ組織の一員恭一だった。恭一の母やすは事故の時目撃したが警察には言わず、恭一の愛人洋子と一緒に田村と清水を殺そうと考える。ある夜、清水が下宿に戻ると幸子が来ていた。清水は轢き殺した件を話し、自首するべく幸子とタクシーに乗るが、そのタクシーは事故を起こし幸子は死んでしまう。自暴自棄でバーで飲んでいた清水はそこで一人の女と知り合い、一夜を共にするが、その女は洋子だった。洋子は、清水を殺すべく翌晩も会いたいというが、清水は母が危篤だという電報をもらい郷里の養老院へ帰る。

 

清水の父剛造は、養老院の園長だった。そして妾の絹子を引き入れ、清水の母イトの前で平気でいちゃついていた。絹子もまた清水に色目を使い始める。そこへ、剛造の友人で画家の谷口の娘サチ子が現れる。サチ子は幸子に瓜二つだった。まもなくしてイトはこの世を去る。自殺せんばかりに線路に佇む清水の前に田村が現れる。さらに、洋子とやすも現れる。

 

洋子が話があると清水を吊り橋に誘うが、そこで揉み合いになり洋子は吊り橋から落ちて死ぬ。さらに田村もその場にやってくるが、吊り橋から落ちる。養老院では十周年のパーティが開かれようとしていた。そこに集まった園の老人たちは剛造が準備した腐った魚をあてに飲み食いを始める。園の関係の医者や新聞記者らは別部屋で酒を飲むが、最後にやすがやって来て酒を振る舞う。それには毒が入っていた。そこへ死んだはずの田村が銃を持って現れ、剛造や清水らも死に、やすも死んでしまう。

 

皆地獄へ堕ち、清水は幸子と再会するが、幸子は生前妊娠していて、赤ん坊も地獄で彷徨っているという。そして春美と名付けられた赤ん坊を清水は探し始める。矢島教授とその妻も、幸子が死んでから自殺したらしく地獄へ堕ちてくる。そこへサチ子も現れるが、イトによって、サチ子は清水の妹だと告げられる。イトは剛造と結婚する前に谷口の子供を宿していたのだ。田村らは地獄の責めを負い、清水はひたすら春美を追い求めて映画は終わっていく。

 

取り留めのない展開になって、結局行き着くところがないままのエンディングはかなりシュールである。地獄絵になってからの映像も実にアート的で面白いし、現実世界の地獄絵もまたあまりにも残酷そのものである。映画全体が地獄絵の如くという、なかなかの傑作だった。