「でっちあげ〜殺人教師と呼ばれた男」
実話とは言え、綾野剛の圧巻の演技と、観客の気持ちを逆撫でするようなストーリー構成、意味ありげな斜めの構図などで、ぐいぐいと映画に引き込まれてしまいました。さらに、決して拍手するようなハッピーエンドであっさり締め括らないリアリティも、映画を分厚いものにした気がします。なかなかの力作でした。監督は三池崇史。
裁判所へ向かう弁護団、大騒ぎするマスコミ、そこに一人のオドオドした主人公薮下誠一が入って来て映画は幕を開ける。裁判官の指示で冒頭陳述を始めた薮下が、原告が訴える全てがでっち上げの嘘だと陳述して画面は雨の夜、マンションに入ってくる薮下の姿になる。この日家庭訪問で夜遅く生徒の氷室拓翔の家にやって来た薮下は、拓翔の母律子に出迎えられるが、実に損大な態度で接し、さらに拓翔にアメリカ人の血が混じっていることを聞いた薮下は汚れていると不快感をあらわにした挙句家を出る。
学校では薮下は拓翔に異常なくらいの体罰を加えたり、いじめを繰り返す。ところが、それらは全て律子が作り上げた、あるいは拓翔が言った嘘によるものだった。工場で働いていた若き薮下は、アパートの隅でお腹を空かせているネグレクトされた子供たちを見かけてパンをやり、自宅で勉強を教えたりし始める。子供達に、先生になればと言われて猛勉強して教師になった薮下はいつも生徒に真摯に向き合う良い教師だった。
ある日、教頭に呼ばれた薮下は、校長から、氷室拓翔の両親から、体罰を受けたという訴えを聞いたと責められる。身に覚えのない薮下は、返事に困るが、とりあえず事を収めたいと考える学校側は一方的に薮下に謝罪させ、保護者会などでも頭を下げさせる。ところが地方新聞にそのことが取り上げられ、さらに氷室夫婦がマスコミに情報を流したことでことが大きくなっていく。それでも学校側は薮下を守らず、教育委員会は薮下を六ヶ月の停職処分にする。さらに、氷室夫婦は薮下を民事裁判で訴えてくる。
弁護士も見つからず一方的に薮下は裁判で争うことになるが、あまりの理不尽に必死で弁護士を探し、湯上谷弁護士を見つける。湯上谷弁護士は、氷室夫妻、さらに拓翔をPTSDと診断した医師、さらに律子の祖父にアメリカ人の血などないことなどを突き止めていく。全ては虚構の上に打ち立てられた訴訟だった。それを一つづつ突き止め、やがて結審の日、薮下は、氷室夫妻に請求されていた損害賠償金などの訴えは棄却され勝訴となる。しかし、最初に認めた体罰については白紙にならなかった。
やがて教師薮下は教師に復帰する。そして十年の月日が経ち、この日息子が教師を目指しての教育実習の日だった。横断歩道で生徒を誘導する薮下に湯上谷弁護士が現れ、教育委員会による停職処分は全て白紙になったことが伝えられる。ようやく、何もかもが元に戻った薮下はこの日新しいクラスで自己紹介をする姿で映画は幕を閉じる。
全編緊迫感に包まれ、ぐいぐいと物語が前に進む展開に最後まで引き込まれてしまう。ありきたりな校長や教育委員会の姿、マスコミの立ち位置などは、ちょっとつまらないが、実話だと思えばこれはこれで良いかと思う。斜めの構図を多用した絵作り、綾野剛以外の脇役もしっかり演技をしていて見ていて隙がない。良質の一本でした。
「YOUNG &FINE」
さすがに城定秀夫脚本、程よいエロシーンを交えた青春ストーリーの一片という出来栄えの映画でした。これと言って秀でた部分があるわけではないけれど、軽いタッチのラブストーリーとしては楽しめる一本でした。監督は小南敏也。
小さな港町、高校生の勝彦は、父を亡くし、兄は東京の大学にいて、母と二人きりで生活している。離れが空いているので、ガールフレンドの玲子と勉強にかこつけてエッチにいそしんでいるが、玲子は最後の一線を越えさせてくれず、悶々とした日々だった。この日も、勝彦と玲子が離れで一時を過ごした後、玲子は一人帰っていくが、突然、襲われたと言って戻ってくる。勝彦が玲子と一緒に、玲子が襲われた現場に行くと、髪を振り乱した女性がいた。
彼女は伊沢学と言って、勝彦の家の離れに下宿することになっていた。蛇を追いかけて沢を転げ落ちたのだという。しかも、伊沢は、勝彦の学校の臨時教師としてやって来たのだ。若くて色っぽい伊沢に勝彦は惹かれてしまうが、そんな勝彦を見つめる玲子の姿もあった。アル中の伊沢は暇があれば酒を飲み、学校に遅刻を繰り返していた。さらに行きつけの寿司屋の勝彦の兄の同級生と伊沢も同級生だった。伊沢は勝彦の兄に片思いだったらしく、その経緯もあり勝彦の家に下宿したようだったが、はっきりとは言わなかった。
やがて夏休み、なかなか最後までさせてくれない玲子に勝彦は不満が募るばかり。しかも、トライを決めたらしても良いという玲子の許しを得て頑張ったものの、最後の最後で拒否されてしまう。玲子、伊沢、勝彦の奇妙な三角関係がどこか甘酸っぱい空気を漂わせながら展開していく。伊沢は一時実家に帰ったが、アル中の母が酒に溺れていてそのまま入院させて戻ってくる。しかし、伊沢もまたアルコールに溺れていくようになり、とうとう治療施設に入る。
そんな伊沢を、勝彦らが見舞いに行ったので、伊沢はつい涙ぐんでしまう。教師に復帰した伊沢だが、勝彦の兄がフィアンセを連れて帰ってくる。その祝いの席で、ほのかな失恋をした伊沢は、同級生の寿司屋で最後まで残ってしまう。二次会でクラブ仲間と宴会していた勝彦は、自分の思いを知って伊沢に告白するべく寿司屋に向かうがすでに寿司屋は閉まっていた。実は中で、伊沢と寿司屋の同級生はいい感じになり、やがてできちゃった結婚してしまう。
時が流れ、勝彦は高校卒業後地元の役所に勤め、玲子は、東京の大学で、勝彦らのクラブ友達と交際を始める。仕事帰り、勝彦は海岸で伊沢を認めて声をかけるが、伊沢は、勝彦の兄への告白できなかった青春時代を語った後、子供のご飯を作ると一人帰る。勝彦がバス停に戻ると母がいて、小説家になるから東京へ出ると言ってバスに乗って行ってしまう。勝彦は寿司屋にでもいくかと歩いて行って映画は終わる。
爽やかな青春ラブストーリーという感じの一本で、見ていて、どこか懐かしさと、切なさ、甘酸っぱさを感じられるいい感じの映画でした。