「男神」
独りよがりの神話ファンタジーという一本で、カット割りも脚本も非常に稚拙で、ローカル映画のレベル以下の作品だった。何を言いたいのか、ただデジタル映像を弄んだだけの仕上がりは、さすがに商業映画としては残念な映画でした。監督は井上雅貴。
森の奥、何やら巫女らしい団体が男神に捧げる生贄の男児を連れてくる場面から映画は幕を開ける。このシーンに先立ち男神の説明がなされるのだが、いかにもなオープニングである。時は現代、全国で母と子の失踪事件が続発する中、新興住宅地の建設現場に立つ和田の前に突然巨大な穴が出現する。和田には守という息子がいた。妻の夏子は、突然失踪したままだったが、不審なフラッシュバックで語られるのはちょっとあざとい。
穴が出現して間も無くして守が行方不明になる。穴の中に入ってしまったと思った勇輝は、根の国と呼ばれる神話伝説がこの地にあることを知り、アーサーという専門家の教授らに助けを求め、イタコなどを呼んで、守を助けるべく勇輝は穴の中に入っていく。そして、今にも男神の生贄にされる寸前の守と根の国で巫女をしている妻夏子と共に脱出する。追ってくる男神を呪術で封じ込め、穴を再度埋めようとするが、自らの運命に諦めた夏子は再度穴の中に入ってしまう。こうして映画は終わる。
とにかく、これでもかという神話の世界が押し付けがましく展開し、さまざまな登場人物を通じて語られる物語も、全く本編に生きていないし、出来の悪い映画という一本だった。
「風のマジム」
ローカル映画とたかをくくっていたが、意外にしっかり作られた良い作品でした。原田マハの原作がいいのかもしれませんが、主演の伊藤沙莉他脇役に至るまでしっかり演じておられて、たわいない話がとっても味のあるお話に仕上がって、ラストは素直に感動してしまいました。監督は吉賀薫。
那覇で豆腐店を営む祖母カルマ、母サヨ子と暮らすまじむらが食事をするシーンから映画は幕を開ける。まじむは契約社員として琉球アイコムという会社に勤めているが、上司からは使いパシリ程度にしか扱われずモヤモヤした日々だった。そんなある日、シュレッダーにかけるのを頼まれた書類の中に社内ベンチャーコンクール募集のチラシを見つける。いつも行くバーで、サトウキビを原料にしたラム酒を飲んだまじむはその魅力に惚れ、サトウキビが主産業である南大東島でラム酒を作れないものかと考える。そしてそれを企画書にまとめて提出、ベンチャーコンクールの二次審査までパスしてしまう。
会社の収益を考える新規事業班の部長らは、理想を追うまじむの考え方を認める一方で、利益を産む手段を前面に最終企画を完成させるようにとアドバイスする。一度はその案もやむなしと考えたまじむだが、沖縄でコツコツ丁寧に酒造りをしてきた瀬名覇と出会い、この人に任せたいと切に願うようになる。一方南大東島に工場を建設する必要もあり島民の理解も得なければいけなかった。そして、最後のプレゼンで、まじむは、会社の屋上で社長ら選考員にラム酒を振る舞うイベントまがいのアピールをし、見事最終選考を通過、事業化が決定する。
まじむが子会社の社長となり、瀬名覇は酒造りに勤しみ始める。そしてついにラム酒は完成、その披露パーティの場面で映画は幕を閉じる。
老舗の豆腐店が自分の代で無くなる寂しさを祖母がさりげなく演じながら、必死で奔走するまじむの姿、彼女を支えるバーのマスター後藤田や、南大東島の面々の描写も丁寧で、物語が実に心地よいハーモニーを生み出している。素直に楽しめるヒューマンドラマ、そんな好感な一本でした。
「ファンファーレ!ふたつの音」
少々小さなエピソードを盛り込みすぎたので、ストーリーが散漫になったのは残念ですが、ラストの処理はサプライズになっていて映画的に面白かった。主人公のティボが世界的な指揮者に見えないので、もう少しそこの描写も工夫しても良かった気がしなくもないですが、良い映画だったと思います。監督はエマニュエル・クールコル。
世界的な指揮者ティボがこの日も楽団の練習で指揮棒を振るっている場面から映画は幕を開ける。ところが突然ティボは倒れてしまう。医師から白血病だと宣告され、骨髄移植のため妹のローズの適合を調べるが、適合しない上に、血のつながりがないことが判明する。ティボは養子だった。今まで知らなかった事に愕然とするティボだが、彼は実の弟ジミーの存在を知る。
ティボは、給食センターで働くジミーを訪ね、事情を話すがジミーもまた驚きの事実だった。とはいえ骨髄移植に成功する。ジミーは地元炭鉱会社の吹奏楽団でトロンボーンを吹いていた。ところがその楽団の指揮者が転勤させられる事になり楽団は困ってしまう。ジミーはティボに来て欲しいと考えるが、多忙なティボには無理だった。しかし、ティボはジミーに絶対音感があることを知り、ジミーに指揮のやり方を伝授し支援する事にする。
炭鉱の経営者側は吹奏楽団に否定的だったが、近々行われるコンクールで優勝して見返すことを考える。ところが、コンクール当日、ふとしたことで乱闘になり、吹奏楽団は解散同様になってしまう。一方、ジミーはティボから、音楽で身を立てられるかのことを仄めかされ、国立の楽団のオーディションなども受けるが、当然落ちてしまう。
そんな中、吹奏楽団は解散してしまうが、なんとか力になりたいティボは、自分が指揮をして、合唱と楽器を交えたボレロの演奏企画を提案する。しかし経営者側は楽器など全て押収してしまう。ティボには新作の発表会が控えていたが、適合したと思われた骨髄移植は拒否反応が出てしまう。自暴自棄になるティボをジミーが必死で支えようとする。
やがて新作の発表会のステージ、ティボは見事最後まで演奏しきる。そして観客のアンコールの中、突然、ボレロの声が聞こえてくる。客席の最後列にいたジミー達が立ち上がりボレロをアカペラで演奏し始めた。それに応えてステージ上のメンバーも楽器でボレロを演じ始め、会場内は一つになっていく。こうして映画は終わる。
ジミーとティボのドラマの中に小さなエピソードが散りばめられ、冒頭の白血病のとっかかりから本編に傾れ込む手際良さは良かったが、少々あちこちに話が飛んでしまった。経営者と労働者の確執まで盛り込み、さらにティボやジミーの育ってきたさまざまなドラマまで入ってくると、どこをどう見ていくのか見えなくなってしまう。ラストがなかなかなのでとりあえずまとまるものの、もうちょっと脚本を整理したらもっと良い映画になった気がします。


