くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「シリアスマン」

シリアスマン

コーエン兄弟が描く現代の寓話のような毒の効いた物語。さりげないせりふの中にブラックなユーモアをちりばめ、あり得ないようなプロットが次から次へと起こってくる。しかも、その出来事のそれぞれがフフと笑ってしまうような風刺が効いているから、これぞコーエン兄弟の真骨頂。

映画が始まるとスタンダード画面で、なにやら東欧の片田舎。一人の男が妻の元に帰ってくる。町へアヒルを売りに行った帰り、思わずトラブルで大変だったこと。そしてそんな災難を一人の老人が助けてくれたこと。その老人は妻の知り合いだったこと。そしてその老人を家に招いたことを語る。とたんに妻はその老人は3年前に死んだ人で悪霊に見入られたと嘆く。そこへ老人が訪ねてくる。悪霊と信じる妻はその老人にアイスピックを突き立てる。悪霊だから血も出ないと叫ぶがやがて老人の胸から血がにじみ出す。そして雪の降る外へ出ていく。それを見送る妻、夫は大変なことになったと嘆く。暗転してタイトル、本編が始まる。

何とも粋な導入部である。
本編になるととあるヘブライ語の教室、一人の少年がラジオを聞いている。そのラジオを教師に取り上げられ、家に帰ると叫んでいる姉、居候の叔父のアーサーがいる。そしてこの映画の主人公大学の数学教師のラリーが帰ってくる。

突然、妻から離婚を迫られたり、学生から無理矢理賄賂を渡され成績を上げろとせまられるは、同居人の叔父はギャンブルに手を出して警察沙汰になる。さらには妻の愛人は自動車事故で突然死に、その葬儀費用を出してくれと妻に迫られる始末。次々とふりかかる災難がまるで絵空事のように時に悪夢の中で描かれていく。

大胆の崩した画面の構図やら、不自然な奥行きのあるショットなどを織り交ぜ、とても現実とは思えない演出を繰り返していくコーエン兄弟の感性がストーリーをどんどん引っ張っていきます。

どうにもならずにユダヤの賢人の助言を聞くべく訪れ、ラビをうけるも、何の解決にもならず。主人公ラリーの人生の物語はどんどん先へ進んでいく様が何ともコミカルではあるもののどこかブラックな残酷さがかいま見えます。

そして、息子の成人の儀式も終わり、すべてを納めるべく、冒頭で賄賂を渡された学生の成績を書き直すラリー。すべてがうまくまとまるかに思えたところへ巨大な竜巻が町を襲ってきます。

遠くに渦巻く竜巻の姿を息子が見据えるところで映画は暗転、エンディングとなる。
なんとも、独創的な作品ですね。ブラックユーモアのウィットあるショットを素直にどんどん楽しめれば退屈しない映画ですが、いかんせん、私にはそこまでのめり込める感性はないようです。見終わって、そのオリジナリティにうならされ、秀作の一本として評価はできますが、コーエン兄弟は時に自分に会わない作品を提示してくるのも確かなようですね。